敗戦

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 広島の平和公園には大きな川が静かに流れる。ここには六十年前、原爆でやけどを負い水を求めて川へたどりついたものの、黒い雨にうたれて無惨にも亡くなった人々が眠っている。夏の暑さが彼らの声を甦らせる。
 小学生の夏休み。広い校庭で体操服を着て原爆が落ちた時を再現した。火傷でただれた皮が地面に着かないように腕を幽霊のようにして歩く。全員倒れ静になると、校庭には蝉の声とナレーションだけが響いた。そのあと立ち上がり、組体操で平和の塔を作る。体で生まれる前の出来事と対話していた。
 それから十年、大阪で迎える雨空の8月6日が過ぎた。翌日の暑さとまぶしい太陽によって、記憶の中の失われた光へまたリセットされる。